写真:別府プロジェクト代表中村恭子さん
一般社団法人BEPPU PROJECT 代表理事 中村恭子さん

『おおいた大茶会』で新しい観光の姿を提案

———福岡生まれの中村さんがBPに携わるようになったいきさつは?
中村 2009年からBPが運営していた国際芸術祭『混浴温泉世界』やアートイベントへ毎年足を運ぶようになったことが始まりです。
最初は「え、東京とか大阪じゃなく、なぜ別府なんだろう」と不思議に思っていたのですが、訪れる度に町の様子が変化していくのに驚きました。それまで別府といえば昔ながらの温泉地のイメージしかなかったのですが、段々と若者が集まるバーやショップがオープンし、外国人留学生や市民の交流の場も増え、町全体に活気があふれていく様子を目の当たりにしました。
「この町の寛容度とパワーの秘密を知りたい」とBP設立者の山出淳也・前代表に申し出て、2017年に移住してBPスタッフとして活動しはじめました。

 

———『第33回国民文化祭・おおいた2018』では運営側で参加されていましたね。
中村 県内全域でイベントが開催されたのですが、私は杵築市での『きつき第茶会』を担当しました。全体コンセプト「おおいた大茶会」にならい、古今東西の喫茶を感じる茶々茶マーケットや音楽ライブ、ワークショップなどを実施し、お茶の産地である杵築らしい賑やかなイベントになりました。
国民文化祭全体を振り返ると、これまで文化イベントに参加するだけで帰られていた県外からの出演者やお客様が、イベントを起点にその土地ならではの歴史や食などの文化に目を向けたツーリズムの提案で、2泊、3泊と長期滞在に結びつけられることに気づかされたことは大きな収穫でした。

町をワクワクさせる彩りを添えるアート

写真:別府駅前通りのマイケル・リンの壁画
別府駅前通りを歩くとマイケル・リンの壁画『温泉花束(Onsenbouquet)』が見えてくる

———別府では台北とブリュッセルを拠点に活動するマイケル・リンのプロジェクトが始まりましたね。
中村 第1回目の『混浴温泉世界』にも参加してくださった彼の大型壁画『温泉花束(Onsenbouquet)』が、2023年3月からブルーバード会館の西側壁面に設置されています。
別府市内で見つけた浴衣とタイルの柄がモチーフで、並行して11種類の作品ポスターを無料配布し、市民の皆さんが自宅の窓に貼り出したり、バッグを作ったりとそれぞれのやり方で作品を楽しんでくださっています。なかにはペットの服にして着せたりと、思いも寄らない使われ方をしています。まるでマイケルさんが投げた小石が、素敵な波紋を描きながら広がっていくようです。
 

———町の身近な場所にアートがあると楽しくなってきますね。
中村 実はマイケルさんの作品は2022年から始まったプロジェクト『ALTERNATIVE-STATE』の2番目の作品で、1番目はサルキスが別府駅前のホテル「AMANEK Inn Beppu」の屋上で夜間点灯をする作品を展開しています。
4年間で8つの作品を制作し、すべて揃った時点で別府市内を巡って味わってもらおうという仕掛けになっています。

写真:サルキスの『Les Anges de Beppu/別府の天使』
別府市中心街の夜空に浮かび上がるサルキスの『Les Anges de Beppu/別府の天使』

DCで豊かな大分文化を体感してもらいたい

写真:アントニー・ゴームリーの彫刻
彫刻家・アントニー・ゴームリーによる国東半島芸術祭の作品《ANOTHER TIME XX》(2013)

———大分県内ではアート事業を積極的に展開する町も増えてきました。
中村 たとえば国東半島に目を向けると、世界で最も長い歴史のある国際美術展『ヴェネチア・ビエンナーレ』の出品作家たちの作品が点在していますし、豊後高田の長崎鼻リゾートキャンプ場では市民グループが耕作放棄地を開墾して菜の花やひまわりと共にアート作品を楽しめるようになりました。
このほか城下町の竹田には様々なジャンルの作家が住んで活動していますし、大分市では大分県立美術館を核にした都市型のアートイベントが充実しています。

 

———DC開催にあたり、大分で展開するカルチャー・ツーリズムの魅力はどこにあるとお考えですか。
中村 大分には江戸時代の小藩分立の歴史があり、さらには一村一品運動の影響もあり、県内各地で独自の文化が育まれていると感じます。それぞれの地に根付いた営みや暮らしから神楽や奇祭といった多彩な祭りなど伝統文化も生まれてきました。そこに新たに現代アートも加わり、この豊かな文化圏で展開するカルチャー・ツーリズムが持つ可能性に期待しています。
コロナ禍を経て、DCをひとつのポイントとした新しい観光のあり方を提示できればと考えています。